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「犬に続いてボンボンのクッション代わりにまでされてよ、次の機会なんざあってたまるか…って」
相手の言い草に腹が立ち、文句の一つも返してやろうと座り込んだまま振り返る…が。
「そうですわ、シュガーちゃん! 貴方、家の飼い犬がどっちに行ったか見ましたでしょう!?」
澄んだ空の色のような、ブルーの瞳がナオキの顔を覗き込んでいた。
まるで人の顔のパーツだとは思えず、宝石か何かのような錯覚に駆られて、ようやくナオキは落ち着いて少女の姿を目にした。
錦糸のような光沢のある、しなやかな金髪が後頭部を流れ、毛先のあたりで大きいビーズのような髪留めに通されている。
一般的な日本人の風貌とはかけ離れた、まるで異国の童話の姫様か、薄幸の少女とでも言うような外見。さすがに金髪碧眼というだけでは、異邦人という以上はナオキには何も分からなかったが。
(ちくしょー、前言撤回だ…! 文句も引っ込みそうなくらいにカワイイじゃねーかっ!
くそう、こんなに悔しい気持ちになったのに、気分は晴れやかっていう体験は生まれて初めてだっ!)
前髪のウェーブや睫毛のカールまで完璧な身のこなしの彼女は、牧場経営でもやってそうな青いオーバーオールと白いTシャツを着ていた。
子供心ながらに、その家と教育が出来てそうな少女のギャップが、ナオキに不謹慎な気持ちを抱かせたのだった。
「ちょっと? 私の話をちゃんと聞いてましたの?」
「え、あっ、はいはい、犬ね! それなら反対側に通り過ぎていきまして…って、ありゃ君ん家の飼い犬だったんかい」
何となく無意識に少女にかしづく態度を取ってしまった。
ある一線を超えた可愛さというのはあまりに罪深いものだと、ナオキは身を以って認識した。
「なんですって! 私が呼び掛けたのに逃がしてしまっただなんて、貴方何で捕まえておいて下さらなかったの?」
(うわー、大層なムチャをお言いでいらっしゃるよ)
引き攣った愛想笑いを浮かべながら、ナオキは心の中で毒づく。
やっぱり大物は格が違ったようで、口を聞いただけで今までのトキメキのような気持ちは一瞬で消沈した。
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