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「あぁ、それで団体さんが…。それなら尚更こんな山奥にシュガーちゃんと、私のようなレディを置き去りには出来ませんでしょう?」
心当たりがあったようで軽い相槌を返しながら、少女はナオキに尋ね掛けながら得意気に見詰めてくる。
こういう時に交渉材料に入れてくる点、女ってズルいと子供心ながらに思った。
「そーなんだが、自分でそれを言っちゃう奴はどうかと思うし、それでもちょっとなー」
「……」
「痛ぇ! 引っ張んないでッ! やめてそれ以上いけない」
わざと意地悪な返答を返すと、無言で引っ張られている手首を背中へと捻り上げられたので、尚更だった。
「それに…案内して貰わないと割と本当に困りますわ」
「はーん、ってーと?」
相変わらずの仏頂面ながらも、初めてこちらの動向を伺ってくるような反応に気付く。
このままでは埒があかないので、更に事情を聞き出す事にした。
「私もシュガーちゃんも、最近こちらに越してきたばかりで、まだ近所の地理に疎いんですの。
ですから、私はともかく、シュガーちゃんが迷子になってしまったら…」
「あー、なるほど。道理で見ない顔だと思った訳だ」
一つ、ようやく符合が合致したのを感じた。こんなに良いも悪いも、両方の意味で周囲の注目を惹く少女が町内で話題になっていない、その直接的な理由のようだ。
…それはつまり、彼女が一人で犬を探し続けるのは困難だという事である。
「って、そういう事は先に言えよー…! じゃあ紳士的にエスコートしたるしかねーわ…」
ナオキにしてみれば完全にヤブヘビだった。
この展開はもう断れないパターンだと、空気で察したのだった。
「まぁ、やっとその気になって下さいましたのね?
決してこき使ってあげるなどとは申しませんわ、率直に貴方に期待しています」
この少女は口が悪いのか、それとも本当にバカ正直なのかが、ナオキにはまだ分からなかった。
「へいへい…。あーちょっと、山道に慣れてねーんなら、気を付けなよな」
特命捜査の片手間に済ませられるような、ちょっとした雑用という訳にはいかないだろう…。
本命のロボロボ団員の追跡は、半ば諦める事にした。
世の中の男女の事情というものに疎いながらも、ナオキは一般的な小学生として人並みにマセていたのである。
図らずも意中の女の子と二人っきりという美味しいシチュエーションに、それ以上文句を言う事も無かった。
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