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「別に見くびってんでねーんすわ、ちょっと勘違いしがちじゃねーかなって思うのと、足取りが心配で…あぁ、そこ、そこっ」
「勘違いとは何ですか、別に貴方を信用している訳では…はぶわぁ!」
恐らく見えていなかったのだろう、いかにも掛かって下さいと言うような丁度良い位置に、木と木を跨いだその間に作られた大きなクモの巣に、まるで吸い込まれていくように引っ掛かった。
コンクリートジャングルには、こういう害がありそうなイメージの原生生物なんてGくらいしかいないものなのだ。
「ぎゃーおぉぉっ、クモでかぁ!? いや、こっち這って…ぎゃー、わわわわ…!」
「しょうがないねぇ、プチンとな」
その場に腰を落としてちょっとしたパニックに陥っている相手の髪の表面をサッと掬い、木々へ伸びるクモの糸を一つに纏めると、両手で摘みながら引っ張って千切ってしまう。
四方に張っていたはずのクモの巣の支えのうち下半分がダメになってしまったので、巣が風に大きく煽られたのに驚いたのか、クモは上の方に逃げ出していった。
「しかし、ぎゃーおとか、わわわわーとか、悲鳴を上げるにしてももう少し発音は考えた方がいいぜ」
「うっせーですわぁぁぁああ!」
本当に体裁を取り繕う余裕が無かったらしく、次々とお嬢様としてのメッキが剥がれ落ちてしまっている。
元々第一印象からしてお嬢様らしくない…というのは本人には秘密だが、山をあちこち歩き回る間に一つの乱れも無かった髪は好き勝手に跳ね、オーバーオールの裾には土汚れが滲んでいる。
今となっては綺麗なドレスよりも今の格好の方が、彼女の雰囲気に合っている気がしてくるのだから不思議なものだった。
「ひぃぃーっ…! 髪にクモの巣がこびり付いたままと言うだけで身の毛がよだちますこと!」
「自分で突っ込んだんじゃん、それより念願のマイホームに追突されて保険も下りないクモさんはどんな気持ちなのかをだな」
「おだまり!」
わんわんっ!
「お?」
そんな事をやっていると、真っ直ぐに斜面を登った先で、大型犬が行儀良く座り込んで待ってくれていた。
向こうには木々の群生がぱったりと止まっている上、地面に岩肌が見えており、森から抜けて拓けた丘の上へと出たようである。
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