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「何か反応したみてーだな…? ほら良かったじゃん、やっと犬が見つかったぞ。
アイツで間違いねーだろ?」
良く見ると、犬の首元に巻かれた革の首輪に上等そうな飾りが付いているし、何よりも首輪から後ろに掛けて持ち主不在のリードを引きずっていた。
「もう放っといて下さいな! 私はもうこれ以上歩けませんの!」
「えぇー」
癇癪を起こされてしまった。
「んな事言いやがりましても、あともう少しのところですのに一体アンタはどうなさいますかしら」
「だったら貴方がシュガーちゃんを連れ戻してきて下さいまし!」
「えぇー」
ナオキは彼女の真似をしたが、それには触れられずに命令されてしまった。
「もう本当に目と鼻の先だってのに…。しゃーねぇ、ここでまた逃がしちまうのは癪だからな。
すぐにここまで連れてくるから待ってろよ」
ナオキは彼女をその場に残して坂を駆け上がるが、彼女からの返事は無かった。
「えっほ…と。やっと捕まえた、もうあのご主人から離れないでやってくれよ…お、おっとっと」
わんわんっ!
丘の上に登り切って、シュガーちゃんのリードを握るナオキだが、何故か威勢良く一吠えすると、少女が待っている方とは反対へとぐいぐい引っ張られていく。
「え、ちょい待ち、どーいうこったよ? そっちじゃねーって…おい!」
わんわんっ!
それなりの時間歩き続けていたせいで、疲れから足の力が抜けて思うように踏ん張れない。
だが、シュガーちゃんの様子も、特にアテもなく一目散…といった感じではなく、ナオキの手を引っ張りながらたびたび此方の様子を窺っているように見えた。
「なんだ…? シュガーちゃんよ、まさか俺をどっかに案内しようとしてんのか?」
両手でしっかりリードを握るも、前のめりになって大型犬の走る勢いに振り回される。
男でもこうなんだから、少女にはシュガーちゃんの散歩なんて無理じゃないかとナオキは思った。
「うわ、ちょ、待っ…もう少しゆっくり…! って…こりゃあ何だ?」
よろけながら視線を前方に戻すと、そこには切り立った険しい崖の表面に、ぽっかりと空洞が開いていた。
山の北側に位置している、西から東へと横断するように連なる岩山まで辿り着いてしまったようだ。
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