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―――――――――……。
ここで、話は数分前に遡る。
「全く…! シュガーちゃんを探す過程の内とは言えど、私をこんな…辺鄙なところまで連れてきて…、そのまま…はぁ、姿を消してしまうなんて…無責任な、はぁ」
洞窟の外は一縷の光さえ見えない漆黒の闇に包まれ、森の方から獣の低く唸る声がしきりに聞こえる。
結局、歩き疲れて途方に暮れた少女は、今更森の中へと引き返す事も出来ずに、シュガーちゃんのリードを携えつつも逆に引っ張られながら斜面を登っていた。
あれからしばらく時間が経過しているにも関わらず、未だに足腰はふらついているようで、呼吸も回復しきってはいなかったようだ。
「ご、ご苦労様でしたわ、シュガーちゃん…」
わんわんっ!
自分の御主人が背中の体毛にもたれ掛かってくるのを支えながらも、シュガーちゃんはまだ元気が有り余っているように、尻尾を振って口から舌を垂らしていた。
「も、もう大丈夫でしょう…歩き始めますわ。
シュガーちゃん、引き続き…さっきの男の子がどちらに向かったのか、その後を追えますわね?」
わんわんっ!
威勢の良い返事が返ってくると、少女の強張った表情も心なしか少し緩んだ。
「あの男の子も、こうも暗くなっては一人で帰れるはずが無いでしょうに…!
もし見つかったら、最後まで道案内の責務を全うさせて差し上げますわ。
もし見つからなくとも、その場合は一人で下山ルートを通っているに違いありませんわ…」
この少女も、こういう駆け引きに関しては、なかなかどうして抜け目が無かった。
少女が自身で考えた選択肢に沿って、余計な疑念を持たずにゆっくりと歩を進めていく…。
その表情に不安の色は無く、余裕を持った貴族たる風格の器量を示していた。
「…あら? 一体何ですの、あれ…?」
だからこそ、予測し得た2パターンの筋書きに当てはまらない結果となってから、少女は狼狽する事となった。
「洞窟…なのに、明かりが付いているなんて」
わんわんっ!
「シュガーちゃん、本当にそちらに入って行きましたのね?」
不審な洞窟に近付くにつれて、リードを握る主人の手を引っ張る力が強まる様子から、シュガーちゃんに確証がある事を察した。
…が、すぐ先に差し掛かったところで、突然に止まって誘導を止めてしまった。
がさがさっ!
「……!」
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