第一章・前編

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自宅前で勃発する喧騒は、いつも唐突に始まる。 「…またやってるよ、じーちゃん達」 苦笑混じりの溜め息を浮かべながら、ナオキはよっこら…と腰を上げ、窓を開けて外を見下ろした。 「ええかァ!? 今日こそワシの『こすもす』で決着を付けたらァ!」 猫背になって杖を突いているハゲたじいさんが、道路を挟んだお向かいのお宅に怒声を放っている。 …恥ずかしながら、ウチのじーちゃんの「獅塚テツジ」である。 普段は気さくで親しいじーちゃんだが、お向かいさんが絡むとちょっと見境がなくなるのが偶にキズ…。 「フン…抜かせッ! 俺の『てろす』が今日こそ引導を渡してやるってんだ…!」 と、お向かいの庭先の垣根の間から、ゆっくりと立ち上がる人影が見えた。 後手に回した腕で背骨を押さえているも、じーちゃんとは対象的にピンと背を張って直立している。 並々とした白髪と、フサフサに蓄えた髭に手入れをしているようで、普段は紳士的な立ち振る舞いが見て取れる。 「城崎ユウゾウ」さんだったっけ、城崎のおじいさんで通ってるから、名前はちゃんと聞いた覚えがない。 …が、やっぱりこの人も、じーちゃん相手だと威厳ある顔が余計に険しくなって、正直ビビる。 『テッチャン、また騒ぎを大きくしてしまって、よろしいのですか?』 猫背のじーちゃんの傍に、同じくらいの小柄な等身の少女が寄り添っている。 一見、ウチの妹か何かと見間違えそうなものだが、あれこそが「ニンゲン」をモチーフにして人工筋肉で構成された二脚型メダロットだ。 じっちゃんの長年の相棒にして、ウチのお座敷メダロットのKOS-MOSである。 二脚型は機体の性質と柔軟性を徹底的にニンゲンに似せてある傾向があり、等身大のニンゲンそのものの動作や仕草を追求されている。 車両型や多脚型など機能性に特化したタイプも相応の需要があるが、一般普及しているメダロットの一番人気はこの二脚型である。 やっぱり、生きているニンゲンとそう変わらない肌感や立ち姿には、人々も安心感を感じるのだろうか。 『ハン、何を配慮している…KOS-MOS? マスターの合意は得ているんだ、せいぜい楽しませて貰わなければな…!』 道路を挟んでじーちゃんと向かい合う、城崎のおじいさんの傍にも、漆黒のドレスに身を包んだような少女の姿。
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