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「ちょっと…違うなぁ…」
鏡越しの私は、両手に服を持ちながら眉間にしわを寄せている
「これも違うなぁ…」
手に持つ服を入れ替えて、身体の前に持ってきて、また眉間にしわを寄せる
こんなことを、かれこれ小一時間ほど馬鹿みたいに続けている私は、外から見ると本当に馬鹿らしいのだろう
「やっぱり…これかなぁ…」
窓の外は、これでもかというくらいに快晴。春先ということもあって、非常に過ごしやすい、そんな気候
今すぐにでも外に出て、いろんなところに出かけたいと、普段の私ならそう思うところだろう
だけど、今日はどうしてもそんな気分にはなれない
なぜか、理由は簡単だ
緊張しているからだ。心臓が今にも飛び出そうなほどに緊張しているからだ
こんなに緊張しているのは、大学入試以来だと思う。いや、もしかしたらそれ以上かも
「はぁ…」
ため息は幸せが逃げる、とよくおばあちゃんに言われたものだ
ただの昔からの言い伝えのようにも聞こえるけど、これがなかなか馬鹿にできないと私は思う。実際にため息をしたときは、やっぱり気が滅入るものだから
だけど、それでもやっぱり出てしまう。もれ出てしまうため息
それは、別に嫌なことがあったからではなくて
むしろ、それはうれしいことで
でも、やっぱり緊張することで。胸が張り裂けそうな、そんな感覚に襲われているわけで
「ちょっとでも…話せたらいいな…」
無意識にポツリと出てしまう、そんな独り言は、私の心のうちをすべて表しているようだった
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