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それは、去年の春のことだった
右も左も分からない、それこそ新入生を絵に描いたように、私はおどおどしていた
それほど、気が弱いというわけでもないし、取り乱したりするようなことも今までなかったけど、このときばかりは焦っていた
内山田渚にとって、あのときほど追い詰められた経験はなかった
「…どこ、ここ?」
それほど広い敷地ではないと、事前に聞いていたのだけど
こともあろうか、私はそのとき完全に道に迷ってしまっていたのだ
うかつだった
確かに大学としては、それほど大きな大学ではないと思う、有名な私立のそれと比べれば、小さいほうだと思う
だけど、大学は大学だった。完全になめていた
「どうしよう…」
広い広い大学の敷地内。私は最初から一人だったのに、完全に取り残された心地を味わっていた
別に、道に迷っただけならどうとでもなるのだ
誰かが通り過ぎるのを待って、その人に聞いてみたらいいし
それがダメなら、しらみつぶしに歩いてみて、時間をかけて目的の場所にまで到達すればいい
だけど、このときばかりは、そんな余裕はなかった。なぜなら
「もう、入学式始まっちゃうよ…」
はっきり言って、めちゃくちゃピンチだったから
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