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「お名前教えてくれませんか?」
言った2秒後に、後悔したのを今でもよく覚えている
さっき会って、ただ、道案内をしてくれた男性に対して、どうして名前など聞く必要があるのだろう。そう思った
それは、きっと彼もそう思っているのだろう
道案内しただけの男にアプローチをかけるような、軽い女だと思われたらどうしよう
普通に考えて、そんなはずはないとわかるような、そんな憂慮が頭の中を覆いつくしてしまう
「若竹駿だけど…」
彼が遠慮がちに言った、その言葉が、何度も何度も頭の中で反響した
「若竹さん…ですか」
私は…。そう言おうとした瞬間
「あ、もうすぐ始まるよ!急ぎな!」
彼は、腕時計を見ながら、せかすように私の背中を軽く押した
「あ、は、はい!」
急ぎな。そう言われたのなら、それはもう急ぐしかない
私は、彼に背中を向けて会場に向かって走り出した
若竹駿。その名前を何回も何回も頭の中で復唱しながら
軽く触れられた背中の感触を、何度も何度も確かめながら
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