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「せんぱぁい。相手が名乗ったんだから、先輩も名乗らないと。相変わらず私以外の女の子には弱いんですから…」
「う、うるさい」
真菜がニヤニヤして、先輩の肩をつつきながらそんなことを言う。先輩はぷいっとそっぽを向いてしまった
…女の子に、弱い?
ふと真菜が、何気なく放った言葉が、頭の中に張り付いて離れなかった
「…俺、若竹駿です。それじゃあ用意するから、その辺でくつろいでて」
改めて、こちらのほうに向き直られたときにはドキッとしたけど、その胸の高揚すらかき消しそうなくらいの低い調子の声で先輩はそう言った
「あのときのこと、覚えてますか?」
私がずっと、胸に引っかかっていた疑問をぶつけるのを待たずに、先輩は私に背を向けてさっさと先いた場所に戻っていった
そしてまた、シートを敷いたり、飲み物を運んだりと、せっせとお花見の準備を始めた
なんとなく、開いた口がふさがらなかった
いくら緊張するファーストコンタクトでも、もっと話せると思っていた
それが、互いの自己紹介もままならないまま終わってしまった
残念とか、悲しいとか、それ以上に
驚きのほうが、はるかに大きかった
「あはは。なんか無愛想に見えるでしょ?でも、勘弁してあげてね」
「え?」
不意に、つぶやいた隣の真菜の言葉に、思わず目を見開いて振り向いた
真菜は、先輩の背中を見つめながら
「何ていうか先輩って、女の人がちょっと苦手なんだって。私以外の女の子としゃべってるのって、あんまり見たことないし…」
そんなことを、さも当たり前かのように言った
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