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『魔潜具販売・買い取り デック魔潜堂』
お世辞にも綺麗とはいえない手書きの看板が自動ドアの上にかかっている。
少しペンキの垂れた〝堂〟の横には店のマスコットキャラなのか、ゴーグルをつけた豚のような絵が描かれサムズアップ。歪んだ笑顔を浮かべ、往来に愛想なのかなんなのかよく分からないものを振りまいている。
その親指を立てた豚の絵は道路に面した大きなガラスにも描かれていた。こちらは業者にでも頼んだのか、看板とはクオリティが違う。
しかしキャラクターとしては成立しているが、こちらは豚というよりも、猪である。おそらく店主が描きたかったものは豚ではなく、猪なのだろう。看板の絵の清書がこちらだ。
店内が見える大きなガラスに自動ドア、端から見ればそこはコンビニだ。しかし店名は骨董品店のそれである。コンビニという文字は、見当たらない。
いや、見当たらないほどに小さい。買い取りの隣に小さく、ボールペンで書いたような〝コンビニ〟の文字があった。
自動ドアから見えるカウンター前に少女が一人立っている。
そしてカウンターを挟んで向こうに大きな〝オーク〟が一人――
雑誌の棚、肌着やライターなどの日用品、栄養ドリンク、おにぎりにパンに弁当……そこまではコンビニと同じ店内。
しかしそこから奥は棚すらなかった。そこに並べられているのは汚れた壺や丸められた絨毯やなにが描いてあるのかも判然としない絵。
ひび割れた鏡や用途の分からないものばかり。全体的に暗色のその空間からは怪しげな空気が漂い、異世界のような雰囲気を醸し出している。
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