第一章・探偵と不幸な男

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  事は、凡そ七時間前まで遡る。 9月3日 18:16 東京都 小金井市 小金井公園前 「涼しくなってきたなぁ……」 眼鏡をかけた気弱そうな青年、加田 純一(カダ ジュンイチ)は、車輪の細い自転車に乗りながら額の汗を拭った。 太陽が落ちて涼しくなってきたとは言え、この時期の暑さは堪えきれぬものだったが、この場所は自然の多い公園の近くということもあり、時折涼しい風が吹いていた。 彼は自転車で目的も無く遠出することが大好きで、纏まった時間を見付けては朝から自転車を走らせていた。 この日も朝から都心部へと出掛け、漸く地元へと戻って来たところだった。 あとはこの、広大かつ自然豊かな公園を通り抜け、駅の方へと向かえば、彼の住むマンションが見えてくる。 「さて、さっさと帰ってシャワーを浴びますか」 汗だくになったグレーのTシャツをバサバサと動かし、純一は薄暗い公園の中へと入っていった。  
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