序章・探偵と傍観者

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  『あなたは 彼に脅されていて こんな過ちを犯した』 『あなたに 良心が 残っているのなら 自首を お勧めします』 『これは 私からの せめてもの 情けです』 打ち込まれていく文字を睨み、男は口角をヒクヒクと動かしてわざとらしい笑顔を作る。 「ふふ……ははははは……誰が自首なんかするか」 ギラギラと煌めく瞳を暗い天井へと向け、部屋を歩き回りながら男はぶつぶつと呟く。 「そうだ……そうだよ。逃げればいいんだ。財産を、全部持って。イタリアでも、アメリカでも、オーストラリアでも……一生遊んで暮らせる金が、私にはあるのだから」 もう一度鳴った『ピッ』という音に気付かず、男はその部屋を後にした。 パソコンには、『残念です』の文字。 そしてタイミングを見計らったかのように、窓の外にはパトカーのものと思しき赤色灯の明かりが幾つも出現した。  
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