序章・探偵と傍観者

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  結局、男は逮捕された。 手錠を隠すように巻かれた布と、顔を隠すように被せられた洋服が、数分前に掛けられた情けを無視したことへの後悔の念を増長させる。 そんな自責の念に苛まれながら連行される途中、屋敷の外へと出た男は、集まった警察官達の中に不審な人物を発見し、不意に足を止めた。 グレーのフードを深く被った、怪しげなその人物は、片手に持ったノートパソコンを慣れた手付きで操作している。 「おい」 後ろに立つ警察官が、『早く歩け』とでも言うように男の背中を小突いたが、男は逆にその警察官の方へと向き直る。 「あの方は……?」 視線でその者の方向を伝え、男は訊ねた。 警察官は教えるべきか迷った挙句、結局何も語ることはせず、男の背を押して彼を歩かせる。 強制的に連行されていく男が、再び怪しげな者の方を見遣ると、その人物はパソコンを操作する手を止め、フードの隙間から男の方をじっと見つめていた。  
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