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ことの発端は、歩き疲れた二人がいつも通り野宿をしようとしたことにある。
偶然にも、二人が休もうとしていたところはここら一帯を拠点としていた盗賊団の縄張りで。
たまたま、縄張りを徘徊していた盗賊団が、二人組を発見。
端から見れば幼い少女と普通の青年の二人組。武装した盗賊たちにとっては格好の獲物である。
したがって、そんな両者が出会ってしまえばどうなるかは、予想に容易い。
盗賊団は追う。
二人は逃げる。
追う。逃げる。追う。逃げる。
真夜中の逃走劇は、こうして始まってしまったわけだ。だが、それも、遂に佳境を向かえる。
「いい加減に諦めろやぁぁぁっ!」
不意に盗賊の一人が叫んだ。
両者の間は十数メートル程の距離しかないのだから、勿論その声は二人の耳に届くわけで。
「だーもうっ! そりゃあこっちのセリフだバカヤロー!」
荒々しい怒鳴り声を背に、青年――アルは、忌々しそうに毒づいた。舌打ち混じりのそれも、ごもっともだ。寝ようとした途端、粗暴な闖入者どもにそれを邪魔され、追われるはめになったのだから。
しかも、結構な距離を逃げているというのに、未だに追いかけてくるのだ。むしろ、逃げれば逃げるほど血気盛んになっていくのだから忌々しいことこの上ない。
「んで、奴(やっこ)さんああ言ってるけど、どーするのー?」
そんな、穏やかではない相方の胸中を察したのか、アルよりも一回り小さな外套に身を包んだ少女――リオは、淡い桃色の瞳でアルを見上げ、たずねた。
その表情に、焦燥感などはない。
その代わりに、蠱惑的な――『答えなど最初から分かっているけれど』とでも言いたそうな笑みが貼りついていた。
「決まってんだろ。どーやら諦めてくれねーみたいだし……実力行使だっつーの!」
アルはリオを見返し、ぶっきらぼうにそう答えた。
そう、その問いの答えなど、この二人のなかでは最初から決まっていた。
同時に、この盗賊達の運命も決定する。
今まで、一方的に他者から奪い、暴挙の限りを尽くしてきたこの賊徒達が、
狩る側から狩られる側へ。
奪う側から奪われる側へ。
追う側から追われる側へ。
その立場が逆転することなど、今まで築き上げてきた強者としての自信が打ち崩れることなど、想像できただろうか。
アルの口元がニヤリと曲がった。
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