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「まったく、不運なこったぁ……」
獰猛な笑みに合わせて吐き出されたのは、威嚇するような低い声。
そこに恐怖なんてものはなく、表情は、まるで獲物を狙う獣のようだった。
猛禽類のような双眸は虚空を睨み、凶暴な光を放つ。
ナイフのような雰囲気を纏ったアルの風貌は、まさに飢えた猛獣。
アルはもとより短気で好戦的な男なのだ。見ず知らずの盗賊どもに、しつこく追走されたとあれば、怒る。
今のアルは、噴火寸前の火山となんら変わらない。我慢など、とっくの昔に限界がきていた。
――“オレら”を狙うなんて、不運極まりねーよ!
見開かれた両目。アルは腰に差した得物を手に取り、言った――
「リオッ離れてろ!」
「アイアイサーッ!」
待ってましたと言わんばかりに、リオは快活な返事をし、すぐさまアルと距離をとる。
全力疾走。姿勢を低くし、風を切って荒野を駆け抜けるリオの姿は、どんどん小さくなっていく。
「なっ、速い!?」
それを見た男たちは、驚嘆の声をあげた。
それもそのはず、女性が、それも少女が、自分達をはるかに上回る速度で走っているのだから、驚かないはずがない。
「ただの盗賊風情が、リオより速く走れるワケねーだろ」
その滑稽な姿を嘲笑いながら、リオが十分に離れたことを確認したアルは、走る速度を落としながら振り返った。
その視界に映り込んだのは、武装した男ども十余人が迫ってくる様。
常人ならば、恐怖のあまり腰が抜けるあろう光景を目の当たりにしながらも、アルの顔には余裕さえ伺えた。
ひぃ、ふぅ、みぃ………。
迫り来る敵を数え終えた、アルの表情は落胆したように沈む。
それは、決して絶望などからくるものではなく、
「すっくね……。こんなんじゃ準備運動にもならねーよ」
「いい加減にしろやぁぁぁぁぁ!!!」
単に、己の力を思う存分奮えないことに対しての落胆であることは、流石に、痺れを切らし斬りかかってきた一人の盗賊には判断できなかっただろう。
勢いよく振りおろされた剣。死を伴った銀光が、アルの姿を捉える。
両手によって振り抜かれた刃が、アルの身体に触れようとした刹那――目にも止まらぬ速さで、“それ”は引き抜かれた。
――金属と金属がぶつかり合ったような、甲高い音が周囲へと響き渡る。
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