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「ッ――」
まさか、渾身の一撃を防がれるとは思ってもいなかったのだろう。男はたじろぎ、一瞬ではあるが、動きを止めてしまった。
その隙を、アルは見逃さない。重なった刃を難なく往なし、そのまま前へ蹴りを放った。
鈍い音。男の呻き声。
「軽いな」
大の男の身体が、宙を舞った。
数メートルほど吹き飛ばされた体躯は弧を描き、地面へと強かに叩きつけられる。横たわった男はいっこうに立ち上がる気配を見せない。
まるで時が止まったかのような沈黙。盗賊たちは微動だにしない。
仲間が一人、やられた。その事実を理解できなかったのだ。
数秒の間をもって、ようやく盗賊たちは悟る。
――“コイツは、只者ではない”と。
「大勢でかかれっ!」
誰かが叫び声をあげた。それに呼応したかのように、アル目掛け、数人の盗賊たちが一斉に飛びかかる。
――戦いの狼煙は上がった。
ある者は、斧を振りかざし。
ある者は、槍を振りかぶり。
ある者は、剣を振り抜いた。
骨を絶とうと、肉を穿たんと、四肢を切り裂かんと。殺意が形を成して、アルへと迫る。
普通ならば、死を覚悟するだろう。自らの運命を嘆き、断末魔と共に散るであろう。
だが、アルはこの時を楽しんでいた。
嬉々とした笑みを浮かべながら、一気に己の力を解き放つ。
「魔器――開放オォォォッ!」
咆哮――アルの手に握られた得物から、吼えるような駆動音。
“それ”はただの武器ではない。
正式な名前は――魔器(アーティファクト)。
魔剣、機械剣とも呼ばれているそれは、使用者の魔力を刀身に加えることで、絶大な威力を発揮する。
その魔器が与えられた銘は、『百式剣刄 --ヘカトンケイル--』
一見すれば、飾りのない平凡な剣であるそれは、名工が施した機構により、形を変える。
無骨な刀身から、滑るように現れたのは二枚の刃。計、三枚の刃を有した戦剣を、アルは軽々と振り回し、不敵に宣言した。
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