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「テメーら全員、半殺しだ!」
誰もが不可能だと思うことを、アルは簡単に言ってのけた。
果たして、それが有言実行されるとは思わない盗賊たちは、それを意にも介さずアルへと迫まる。
再び、鋭利な光がアルを襲う。
常人には、決して避けることのできない距離。このままでは、アルの体躯は切り裂かれ、紅に染まるだろう。
その先に待つのは死。だが、それでもなお、アルは笑う。
恐怖など、絶望など、ありなどはしない。
そこにあるのは、純粋な、高揚のみだった。
「遅っせーなぁ。んなモンじゃ虫も殺せねーぞ」
死線の最中、命の綱渡りともとれるやり取りすら、アルの目には止まって見えた。
一閃――振り抜かれた魔器は赤に染まってはいない。だが、その代わりに、彼らの得物と戦意を奪っていた。
「なっ――」
乾いた刃音。柄から切り落とされたのは三つ。それは、重力にされるがまま、落ちていく。
すかさず、アルは地を蹴った。
「“攻撃は、失敗することを常に考えておけ”。基本中の基本だっつーの。いちいち動きを止めてたら死ぬぜ?」
瞬間、アルの姿が消える――
呆気に取られた三人を追い抜き様に一撃、二撃、三撃。
声もなく、彼らは倒れる。糸の切れた人形(マリオネット)と、破壊された武器が地面に激突するのは同時だった。
盗賊たちは、自らの身に何が起きたのかもわからぬまま意識を刈り取られたに違いない。
一陣の風が吹いた。
その拍子に、アルの顔を隠していたフードが外れ、その精悍な顔立ちが露になる。
瞳のそれと同じ金色の髪は風に揺れ、目を覆うくらい長い前髪の合間からは、鷹と形容されるほどに鋭い瞳が月光を映していた。
“金色の悪魔は、鷹の目で獲物を見つける”
アルの容姿を見て、ようやく盗賊たちは自らの愚かさに気づく。
――獲物は、自分たちの方であったと。
「鷹の目に、金髪……も、もしかして――金色の悪魔!?」
誰かが言った。
金色の悪魔、それは、大陸に名を馳せている大罪人――アルの、もう一つの名前である。
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