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盗賊たちは叫ぶ。その声には、焦燥感が色濃く滲んでいた。
「逃げろぉぉぉ!」
完全に逆転した立場に、盗賊たちは逃走という手段を選ぶ他なかった。
自らを遥かに上回る力を持った者を前に、今までの、強者としての尊厳(プライド)すら捨てて、生にすがる。理性や感情をかなぐり捨ててまで、本能に従ったのだ。
確かに、その選択は誤りではない――が、相手があまりにも悪かった。
その苦渋の選択は、儚くも失敗に終わる。
「あん? 逃がすかボケッ!」
尻尾を巻いて逃げ始めた盗賊たち目掛け、跳躍。
アルは、一瞬で盗賊たちの目の前に躍り出た。
絶望、後悔、
恐怖、嫌悪、
諦念、厭忌、
退路を絶たれた盗賊たちの表情に浮かぶ、様々な情念。
今にも失神しそうなほど青くなった盗賊たちを見て、アルは優しく微笑み、言った。
「安心しろ、別に命は奪わねーよ」
その言葉に、彼らは少しの安堵を抱く。
「――ただ、」
だが、それも束の間。アルは、自らに牙を剥いた者どもをすぐさま地獄へと叩き落とす。
「――人様の安眠を妨げた罪はぁ、」
アルの口角が、グニャリと曲がる。
凶悪な笑み。
「――重いぞコラァァァァ」
“金色の悪魔に出会ったら、迷わず逃げろ。戦うハメになったら諦めな”
つい先日、酒場で聞いた噂話が、盗賊たち全員の頭を過る。
それも時すでに遅し。後の祭――否、血祭りならば今から始まるだろう。
悪魔(アル)は、ゆっくりと盗賊たちへ歩み寄っていった。
震える、笑う、後ずさる、歩み寄る。
数分後、男逹の絶叫が荒野にこだました。
――その夜、とある盗賊団が壊滅したことは言うまでもない。
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