邂逅は旅人を禍福に誘う。

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 “白昼夢ですら沸騰してしまうような旅路を、ひたすら進む二人が居た”  強い日差しが降り注ぐ荒野。ところどころに生えた木は今にも枯れてしまいそうで、渇いた赤茶色の土に根を張る植物はほとんどなかった。  見渡す限りの、切り立った岩肌と大地。唯一見ることのできる動物は、遠くの空を羽ばたく鳥はトンビやハゲワシといった猛禽の類くらいで、他には見当たらない。  灼熱の太陽に、一寸先は陽炎に歪む。  妖しげに揺れる情景に、生命の息吹きは欠片もなく、どこまでも無機質だった。  昼夜の寒暖の差が激しく、雨は滅多に降らない。乾燥した空気と生き物たちを拒む気候。  それが、この地域の特徴であり、この光景の所以であった。  キルシュ帝国の西南に位置するこの地域――パルマは、こうも呼ばれていた。     “生命を否定する地”  餓えと渇きを具現したような空間は、そこに足を踏み入れた生物を容赦なく襲う。  太陽光を吸収した岩は、高熱を放ち、渇ききった砂に足はとられる。パルマの地形は、進む者の体力を際限なく奪い、茹だらせ、満身創痍の体躯から水分を搾取する。  そして、諦めるのだ。  どこまでも続く同じような景色に。  終わりの見えない、苦しみに。  飢え、乾き、疲労、暑さ……。  いつまでそれが続くのか。朦朧とした意識のなか、徐々に重くなってゆく身体に、絶望という名の足枷。  よほど強靭な精神を持っていなければ、心は簡単にへし折られてしまう。  そうなってしまえば、生きる意思までも否定した人間は、最後に、こう思うのだ。  ――もう、嫌だ。死んだ方がマシだ――  そして、この地へ訪れた者は、とうとうその意識を手放す。  その先に死が待つとは知らずに……。  故に、ここは“生命を否定する地”と呼ばれているのだ。
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