苦悶のキヲク

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  初夏。 初めて先生がスカート履いてるのを見た。 白で膝丈の、ふんわりとした女の子っぽいやつ。 「スカートでも自転車乗れるって事に気付いた」 「そうですか」 先生は筆記用具を斜め掛けの鞄に仕舞いながら、机の上にある紙に目をやった。 「それで、志望校は変えるつもりはないの?ランク上げたら実家から通うのは無理になっちゃうけど、寮あるし」 「うーん…」 「家族と離れて暮らすのは不安かもしれないけど」 「誰も不安だなんて言ってませんけど」 「ふふ。そうだね、ごめん」 スカートは似合わなかったけど、この笑い方は好きだと思った。 スニーカーを履いた先生と玄関先に並ぶと、先生が「あれ?」と僕の頭を見た。 「…なんか、身長伸びた?」 「…半年やそこらじゃそんなに変わらないと思いますけど」 「ううん、伸びた!目線の高さが違うもん!」 「はあ」 機嫌が良いのか、そんな事を満面の笑みで言いながら帰って行った。  
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