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ぼんやりとした提灯が灯る畦道をサンダルで歩く。
夕方少し雨が降ったせいで草を踏む度に足が濡れ、不快感を覚えた。
舗装された道に出ると提灯の数は倍に増え、浮き足立つ人々の影をより濃くした。
そんな中を、祭をやっている神社へと向かう人々に混じって進む。
神社の階段下に着くと、後ろを歩いていた浴衣姿の妹が僕の前に走り出た。
「ありがとー兄貴!また後でねー!」
そう言うと鳥居の前で立っていた男に駆け寄る。
黒地に鮮やかなピンクの朝顔が描かれた浴衣は、先日父にせがんで買ってもらったものらしい。
伸ばしかけの髪も苦労してアップにし、慣れない下駄を我慢して履けるようになった妹は僕なんかよりずっと大人に近い。
二人は仲むつまじく並んで境内へと消えていった。
立ち止まればたちまち蒸し暑さが纏わりつく。
黒縁の眼鏡を外し、こめかみに流れた汗を手の甲で拭った。
…さて、妹との約束の時刻まで僕も時間を潰さなければならないのだが。
階段下から露店で賑わう境内を見上げるが、この長い階段を登る気にもなれず、道を挟んだ向かいにあった縁石に腰を下ろした。
祭は、好きじゃない。
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