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僕はそこそこ勉強が出来た。
近所のおばさんに「明宏くんなら進学校に入れるんじゃない?」なんて言われた母親はその気になり、わざわざ家庭教師を探してきたのは半年前。
やってきた先生は二つ向こうの駅の短大生。
年齢にそぐわない幼い容姿と服装。
それが第一印象だった。
「いいの。夜だから、お化粧しなくても」
「そういうもんなんですか?」
「そ。この町に知り合いいないし、誰に見られるってわけでもないし」
「僕が見てますけど」
「あはは」
先生は器用だ。
普通に会話をしながら採点をしていく。滑るように動くペン先をじっと眺めた。
「うん、いいね。バッチリ」
「はあ」
「もっと喜びなよ」
「…はあ」
先生は赤ペンを置くと僕の方を向いた。
「広瀬くんって、喜怒哀楽の感情、薄くない?」
「…はあ」
先生は呆れたように笑いながら、今日もリビングにいる母親に声を掛けスニーカーを履いた。
挨拶をすると自転車に跨がり、Tシャツにデニムの後ろ姿はいつもの方向へと消えて行った。
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