10月15日

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『ご準備が整いました』 係りの方から報せが入る 窯の前に置かれた母の棺 棺の上に花束がひとつ 手を合わせる家族の背中 凛と透き通る空が哭く 母だった質(もの)が黒く広がる煙となって空に溶けて行く 物事の在り方には必ず理(ことわり)と云うものがあり、人はその理が備わり始めて人となる 人を形成する凡ゆる物資が遺伝子と云う設計図を元に組み立てられ、人は理を得る 死とは、その理を失う事であり母を創っていた物資そのものは未来永劫、この世界が在る限り損なわれる事はない 母が生きた遺伝子の記憶は僕らの中にあり、それもまた連鎖する命の鎖の一部として未来永劫損なわれる事はない 人が時間と呼ぶ大いなる存在(もの)の懐で刻んだ現実は、人が神仏と呼ぶ大いなる存在(もの)の記憶の一部として損なわれる事はない つまり、一度そこに存在した全てはなに一つ損なわれる事はなく残り続ける 貴女はそんな事、これっぽっちも考えた事はないかもしれない しかし、それが釈迦の教えであり、矢張りこの世の真実なのです さぁ、弥陀の胸に抱かれて下さい もう五感と云う貴女を苦しめた災いは終わりました 感じる事、考える事、 故に現れる全ての苦しみから遠く 遠く、遠ざかって ゆっくりと休んで下さい お母さん、さようなら お母さん、ありがとう お母さん、大好きです
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