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ある国の、古城を望める美しい湖に一人の人間が佇んでいた。
そして、どこからかその姿を見つけたらしい子供達がわっと集まってきた。
「詩人様!」「ねぇ、今日もあのお話を聞かせて!」「今日はね、ぼくの友達を連れてきたんだよ、詩人様!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
詩人様、と呼ばれた人間は口元をにこり、と笑みの形に変えると自分の周りに集った子ども達一人一人に飴を配りながら優しく語り掛ける。
「みんな、座って。初めてここに来た子には好きな飴を譲ってあげて」
「「「「「はーいっ!」」」」」
子供達は元気な声でその人間に応える。
詩人様、と呼ばれている人間はなんとも不可思議な格好をした人物だった。
顔をファントムマスクで覆い隠し、身に付けた衣服は貴族にも、様々な地をさすらう旅人のようにも見える。
そして夜のような色彩のマントを羽織っており、手は白い手袋で覆われていた。
詩人様、と呼ばれる人物はとても知識が広く、ここ最近はよくこの湖まで訪れる子供達を相手に様々な物語を聞かせているらしい。
「詩人様、早く早くー」「あのお話してー」「騎士と竜の御話ー!」「違うよ。今日は英雄の御話だよ」
わーわー、と一瞬にして湖は子供達の声で溢れかえってくる。
それを詩人様は綺麗な黒髪を撫でて「困ったな」と肩をすくめた。
「みんな、静かにして。じゃないと御話が出来ないよ」
「みんな、静かにしよー」「ほら、お前もしーっ」「詩人様が困ってるよぉ」
すると子供達はわいわいと隣の子供達にしーっと指を唇に押し当てる。
それを見て詩人様は「よかった」と呟いて胸に手を添えた。
「じゃあ、みんなが聞きたいお話にしようかな。じゃあ、みんなは何が聞きたい?」
「「「「「お姫様と道化師のお話」」」」」
そして子供達からあがったのは『お姫様と道化師のお話』。
詩人様は何がおかしかったのか、くすくすと笑うと子供達と目を合わせるかのように近くにあった石に腰掛けた。
それに子供達が続く。それが合図なのか、子供達は詩人様から貰った飴玉を口に放ると満面の笑みを浮かべて目を細めた。
「じゃあ、みんな、目を閉じて。お話が終わるまで、けっして目を開けちゃいけないよ?」
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