第零章

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その頃には近付いてくるものが何かというのは容易に判別できた。四足で歩く、毛むくじゃらの体。ギラリと尖った爪と、牙。ここに巣食うモンスター【ウルフ】だ。 少年は以前大人に言われた事を思い出す。モンスターに遭遇したらとにかく逃げろという事を。しかし、動けなかった。初めて目の当たりにした、世にも恐ろしいモンスターへの恐怖が少年の足をただの棒へと変えてしまっていた。 その間にもウルフはゆっくりと近付いていた。その牙から垂れる唾液が少年からも確認できる程。 「ガルァ!」 ウルフが雄叫びを上げると唾液が少年へと降りかかる。が、それが引き金となり、少年はまるで呪縛が解けたかのように、ウルフの反対方向へと叫び声を上げながら走り出した。 「うわああああ!」 一目散に逃げる少年。それを喰らわんとばかりに追うウルフ。しかし、二足歩行のそれもまだ幼い少年の足では、四足歩行の速さに到底及ばない。僅かに走り出すのが速かった少年によって生み出されたウルフとの距離はだんだんと狭まっていく。 がむしゃらに走る少年は特に考えもなく、その通路から枝分かれする通路へと入る。 が、そこには道はなく、行き止まりだった。 しまったとばかりに壁を背にし、振り返る少年。曲がり角から現れたウルフが追い詰めたとばかりに口角を上げたように見えた。その拍子に大量の唾液が床へと垂れる。 それを見た少年はこの先自分に降りかかる事を想像し、その場にへたりと座り込んだ。その様子を観念したと解釈したのかウルフは獲物を仕留めるべく、一度後ろへと体重をかけると、助走をつけ、少年へと飛びかかった。 「う、うわああああ!」
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