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ザンッ!何かが引き裂かれる音。少年は自分の体がウルフの爪によって引き裂かれたのだと思った。その瞬間、頬へ鋭い痛みが走る。
探検隊と称し、同年代の友人と立ち入り禁止区域のここに入ってしまったのがいけなかった。少し目を離した隙に友人を見失ってしまったのが、運の尽きだった。死んじゃうとどうなってしまうのだろう。少年は走馬燈のように記憶を巡る。
しかし、少年は気付く。頬はズキズキと痛い。血が滴っているのが、感触で分かる。しかし、それだけなのだ。
「おい」
不意に声がする。それはウルフの唸り声ではなく、もちろん少年が発した声でもない。全く別の声。
「えっ?」
少年は死への恐怖故に無意識に瞑っていた目蓋を恐る恐る開く。
それは信じ固い光景だった。少年の体を引き裂いた筈のウルフは胴体を二分にされ、少年の目の前に転がっていた。先程聞こえた音は、少年の頬と同時にウルフが引き裂かれた音でもあったのだ。
「おい、聞こえてるか坊主」
再び聞こえる謎の声。視線をウルフから上へと向けると、そこには男が立っていた。その右手には血が滴る片手剣。ウルフはこの男によって始末されたのだと悟った。
少年は助けられたのだ。
その事に気付くと、少年はお礼を言わなくてはと口を開こうとするが、頬に鋭い痛みが走り、手で傷を抑え、顔をしかめた。
「まあ、生きてりゃあ大丈夫だろ。それにしても、なんだってこんなところに」
男は舌打ちを交えてそう言うと、片手剣についた血を払い、鞘に収めた。そして、少年へと近付くと、無造作に担ぎ上げる。
少年は未だその展開に頭が付いていけていないのか、抵抗することもなく男へ体重を預けた。が、不意に何かを思い出し顔を上げる。
「レ、レンは!?」
少年は一緒にこの立ち入り禁止区域に入った友人が無事かどうかを案じていた。少年がこんな目に遭っているのだ。もしかしたら友人も同じ目に、と。
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