第零章

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「レン? ああ、もしかしたら本部に友達がいなくなったって泣きながら走って来た奴か?」 それを聞き、少年は力を抜いた。 ーー助けを呼んでくれたのはレンだったのか。後でお礼を言わないと。 「お前らは後でこっぴどく説教してもらうからな」 ギクッと少年が体を強張らせる。立ち入り禁止区域に入ったのだ。相当怒られるに違いない。少年はその事を考えるとたった今命を救われたのにも関わらず、どこか遠くに逃げてしまいたいと思ってしまった。 しかし、自分が悪いのだ。怒られるのは仕方がない事。その前に言わなくてはいけない事があると、少年は自分に言い聞かせる。 「あ、ありがとうおじさん」 お礼を言ったつもりなのに、男がキッと睨みつけたので、少年は目を丸くした。 「おじさんって年齢じゃない。おにいさんだ」 それを聞いた少年は顔を緩め、フフッと笑う。 「ありがとう、おにいさん!」 少年がそう言い直すと、男は照れたのかは分からないが少年から目を逸らす。その横顔を少年は目に焼き付けるように見た。 炎のように赤い、少々長めの髪。赤みがかかった瞳の切れ長の目。この人が命の恩人なのだと。 少年はその横顔から目を離すと、男の背にたなびくマントを見る。 空色の生地に大きく刺繍された、交差した剣と両翼のマーク。少年はそのマークをどこかで見た事があると思ったが、どこで見たかは思い出せなかった。 頬の傷は相変わらずズキズキと痛むが、男が歩を進める度に起きる規則的な揺れがなんとも言えない心地良さを与えてくれる。 死の淵という恐怖から解放された少年は自分でも気付かない内に眠ってしまっていた。 次に目を覚ました時は薄気味悪い通路ではなく、見慣れた自宅の風景だった。
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