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講義が終わり、最寄の駅から電車に乗った。
春の陽気が蓮をヒュノプス<眠りの神>の世界へ誘った。
そして夢を見た。
また依織の夢だ。
彼女を見ると、からっぽになった、自分の心のことを思わずにはいられない。
蓮の心はヴァニタス<空虚>に支配されている。
それは依織がいなくなってから数か月後に気づいた。
気づかなければこうにはならなかった。
しかし気づいてしまった。
自分が依織のことが好きであることを。
いなくならなければ、決して気づくことのなかったであろう感情。
それに気づくことができてよかったのかどうかは、今の蓮にはわからない。
空虚な心では理解することができない。
空っぽの心にそれを詰め込んでも、何の変哲もない感情にすり替わってしまう気がする。
黄金が価値のない砂粒に変わるように。
思索の海に沈んでいる蓮は、電車が駅に停まることで引きずり上げられた。
上げられた場所は、蓮がいつも乗り降りする駅。
それに気づいた蓮は電車から降りた。
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