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草花が芽吹く季節の終焉が近づく田舎町。
ありきたりな田舎を各駅停車の電車が急ぐことなく自分のペースで走っている。
電車は緩やかに減速し、駅がすぐそこにあることを告げる。
下車する駅が近づいているので、読んでいる本にラベンダーの押し花の栞を挟んだ。
名残惜しそうにひと息ついてに本を閉じ、鞄に入れて席を立った。
やがて電車はゆっくりと止まり扉が開いた。
電車から降りて、息を大きく吸い込む。
いつもと変わらない、沿岸にある田舎の磯の香りが混じった自然豊かな匂いだ。
階段を上がったり下りたりすることなく、プラットホームに直結している改札を抜ければ、駅前ということもあり、申し訳程度に商店が並んでいる。
町には観光地と呼べるものがないので、外来の人はこの地ではめったにお目にかかれない。
なので商店を訪れる客はここに住んでいる人ばかりだ。
戸沢忠邦〈とざわただくに〉もそのうちの1人だ。
並んでいる商店のひとつであるパン屋に入店した。
焼き立ての食パンの香りが忠邦の嗅覚をくすぐる。
商品棚の隅っこに陳列されている、パン耳が入れられた袋を持って、それをレジに小銭と一緒に置いた。
店員から小銭を受け取ると袋を持って店を出た。
袋を開けて、買ったばかりのパン耳をかじりながら目的地へ歩き出した。
4本食べ終えた頃にそこに着いた。
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