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大崎製作所。
航空機の部品を製造していた子会社で、戦争が始まってからは、軍需企業の下請けとして航空機関連の部品を作っている。
「所長、こんにちは」
「忠邦か、今日は早いな」
製作所の外で、町を海に押し出すようにそびえる山をバックに、タバコをふかしている所長の大崎徹造<おおさきてつぞう>が、不思議なものを見るような目つきで忠邦を見た。
「今日は大学の講義が午前中までだったので」
そう言ってパン耳を差し出した。
「これでよく空腹を満たせられるなあ。もっとがっつりしたものは食わないのか?」
短くなったタバコを捨て、足で踏みしめながらパン耳を咀嚼する大崎が尋ねた。
「小食なので」
「仕事中に倒れるなよ」
と言って、忠邦の肩を軽く叩いて製作所に戻って行った。
忠邦も後に続いた。
中はむせ返るような暑さだ。
湿気で重くなった熱気が入る者に襲いかかる。
ここだけ季節が先行しているように思えた。
この製作所では、主に計器類や翼を作っている。
忠邦はある理由で、バイトとしてここで働かせてもらっている。
忠邦の担当は、旋回で重要な役割を果たすパーツのひとつである、補助翼の組み立てだ。
当然忠邦1人ではない。
熟練工の方々と一緒に作業をしている。
このような場所で汗を流すようになったのは、あの夢が原因だ。
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