<忠邦>あの島に行きたい

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「あの島にいつか連れてって」 幼馴染の少女、藤堂依織<とうどういおり>の発言で、僕が最後に聞いた言葉だ。 依織はこの言葉を言った翌日、冷たい雪が深々と降る寒い日に、どこかへ行ってしまった。 彼女がどこへ行ったかは、いまだにわからない。 僕たちの前から姿を消してから、8年の歳月が流れた頃に同じ夢を何度も見た。 澄んだ青空のもと、依織が石を積み上げて作られた壁に座って、柔らかなロングストレートの茶髪を潮風になびかせながら海を見ている。 容姿はあの日、9歳の頃とはまったく違っていた。 成長しているのだ。 いくら容姿が変わっても、顔立ちにあの頃の名残があり、雰囲気も変わっていない。 そして、夢の終わりに決まってこの言葉を言う。 「あの島に行きたい」 ここで夢は終了だ。 夢のことを依織と俺とよく一緒に遊んでいた高坂蓮〈こうさかれん〉に話した。 すると、意外な言葉が返ってきた。 「奇遇だな。俺も見たよ」 こうなってしまえば、あれは夢の中の話として片づけられない。 「あれって何か意味があるのかな?」 「あるよ。絶対にある。だから依織を乗せる飛行機を作ろう」 蓮は唐突な発言内容に驚いている。 「何をわけのわからないことを。問題だらけじゃないか。まず依織はどこにいる。飛行機はどうやって作る。その資金はどこから調達する?」 「依織の居場所ならある程度まで絞れる。たぶん国家機関がらみの施設にいる」 忠邦は自信を持って言った。 「戒厳令が敷かれて警官や秘密警察、憲兵がうろうろしているこの状況下で、事件を起こせばすぐに逮捕されるだろう。なにせこんな田舎町でも、警官を見ない日はないぐらいだ。都会なら視界に入らないことはないだろう。それに依織のいた孤児院は国営だ。簡単に研究所の類に移送できるだろうよ」 蓮が少し鼻白んだように見えた。 これほどまでに的確に、明確な根拠を持った説を述べたことが、それほどまでに衝撃的なことだったのだろうか。 「なるほど。で、飛行機は?」 「父さんの友人に、払い下げられた偵察機を持ってる人がいるから、その人に貸してくれるよう頼み込んでみる」 まかせろと言わんばかりに胸を叩いてみせる。 「今度の日曜に一緒に行こう」 わかったという承知の言葉を聞き、日曜日に蓮と一緒に友人がいる場所へ向かった。
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