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耳をつんざくような姉の悲鳴が響いた。
ぼくが飛んでいくと、姉は一匹の虫に怯えて立ち竦んでいるところだった。
ぼくが殺虫剤を思い切り吹き掛けると、姉を怯えさせた虫は他愛も無く死んだ。
姉が礼を言う。
「ありがとう。危ないところだったわ」
あんなにちっぽけな虫に怯える癖に、どうしてぼくの殺意は軽くいなすのだろう。
「だって、私はあなたの事が好きだもの。だから、私はあなたが何をしようとしても怖くないのよ?」
姉はさらりと言った。さらに続ける。
「あなたも私の事、嫌いじゃないでしょう?」
ぼくは答えかねた。ぼくたちは姉弟だから。ぼくたちは血が繋がっているから。
もし、どちらかが近親相姦という禁忌を破ろうとするくらいなら死んだ方がマシだ。ぼくか、ぼくを好きだとあっさり言うお姉ちゃんかが。
「そうね。でも、もし私があなたに間違って殺されちゃっても、あなたが来るまで待っててあげるわ。死後の世界の入口で」
姉は微笑んだ。いつもの笑み。余裕ある笑み。
「とりあえず、私がこのまま殺されなかった場合、ゴムは私の方で用意しておけばいいのかしら?」
姉の表情が微笑みからニヤニヤ笑いに変わった。
足元にはさっき殺した虫けらの死骸が転がっている。
彼女から、禁忌からぼくが逃げる場所は、今のところ自分の部屋しか無いらしかった。
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