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「…………は?」
頭が空白で埋め尽くされた。
状況が理解できない。
作り出した?何のことだ?
超人桃太郎は脆くなった日本人の心が産み出した、自然発生体のようなもの―――
『私は、私こそが飢えていた。子供たちの笑顔に。
鬼を倒せば顔を輝かせ、桃太郎の活躍ぶりを聞けば心踊らせる。
そんな様が紙芝居をやる自分には毎日の生きていく糧になっていた。いや、そう気づいたときにはもう取り返しのつかないことになっていた。』
「………何が言いたいんです?」
心臓が早鐘を打つ。
自分の中の信念か何かが崩壊してしまう予感。
そんな予感が鳴らす警鐘が―――
『桃太郎を超人に仕立て上げたのは、私だ。
M4シャーマン、ミサイルフリゲート艦、F18、ノーベル賞、釈迦の兄弟、46センチ砲三門搭載………
あれは全部、私の口から出たもので間違いない。』
「!!!!!!!?」
―――一体こいつは何を言ってるんだ?
桃井きびだんごは被害者のはずだ、祖父から聞いた限りでは。
『真実の』桃太郎を語り、その清らかさでもって全国を勇気づけ、しかしその代賞として
世の噂話が作り出した『絶対的神』桃太郎に存在ごと抹殺された被害者の。
それが………
今ごろになって、
自業自得だと?
加害者だったと?
あってなるものか、そんなことが。
桃井きびだんごは、山中という、自分という人間の、最後の塞でなければならないのに。
真実を語り継いだ者として、この世をもう一度振り出しの世に戻すヒーローでなければならないのに。
でなければ、一体自分たちは何のために―――
心の城壁が、音を立てて崩れゆく。
―――桃太郎は根っからの侵略者で。
超人桃太郎を作り上げたのは自分だときびだんごが言い出して。
「ふざけるのも大概にしやがれ」
その瞬間、
山中の心に『鬼』が生まれていた。
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