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「だからあんたは自分のやったことは正しいと!?」
『否!違う!
その過程で私はやっと気づいたのだ!
私こそが子供の笑顔に飢えていたのだと!』
「!!」
『子供の笑顔を取り戻す、なんてのはてのいい口実なんだと。
結局自分の荒んだ心を癒すために、無理やりにでも子供に笑顔を作らせているのだと!
本当に伝えるべきことは許容する心を持てということ………だが、私は完全に利己欲に流されて、
それを見失っていた………』
痛惜の念、といった感じのきびだんご。その目に、相変わらず光はない。
山中は上げていた銃口を一度したに下ろし、トリガーから指を離した。
「それであんたは………
語り始めたんだな?
『さっきの結末』を含んだ物語を…………」
山中の問いに。
きびだんごは僅かに頷く。
『だが、その時にはもう、遅かった。
子供たちの心は超人桃太郎が占拠し。
大人たちまでもがそれにあやかって。
本来語るべき内容を語り出した私は、《刺激のないただの妄想家》として、行く先々で迫害を受けるようになった。
手遅れだと気づいた頃には、この国は桃太郎が統治するようになってしまっていた。
私が語った物語は、私の望まぬ方向へと舵を切り始めていたのだ。
子供の笑顔を求めた私は…………結果的に子供の死を産み出してしまった。
桃太郎政府の成立によって。
取り返しの付かないことをした、もうそれだけではすまされない。
私は、どこのどんな独裁者よりも惨たらしいことをやってしまったのだ…………』
―――もはやここまで来ると、「わざとではない」等という言葉は詭弁でしかない、ときびだんご。
直立不動で佇むその姿が、山中にはひどく孤独に見えた。
「…………。」
44マグナムを仕舞う。
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