本来在るべきモモタロウ

9/9

46人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
「だからあんたは自分のやったことは正しいと!?」 『否!違う! その過程で私はやっと気づいたのだ! 私こそが子供の笑顔に飢えていたのだと!』 「!!」 『子供の笑顔を取り戻す、なんてのはてのいい口実なんだと。 結局自分の荒んだ心を癒すために、無理やりにでも子供に笑顔を作らせているのだと! 本当に伝えるべきことは許容する心を持てということ………だが、私は完全に利己欲に流されて、 それを見失っていた………』 痛惜の念、といった感じのきびだんご。その目に、相変わらず光はない。 山中は上げていた銃口を一度したに下ろし、トリガーから指を離した。 「それであんたは……… 語り始めたんだな? 『さっきの結末』を含んだ物語を…………」 山中の問いに。 きびだんごは僅かに頷く。 『だが、その時にはもう、遅かった。 子供たちの心は超人桃太郎が占拠し。 大人たちまでもがそれにあやかって。 本来語るべき内容を語り出した私は、《刺激のないただの妄想家》として、行く先々で迫害を受けるようになった。 手遅れだと気づいた頃には、この国は桃太郎が統治するようになってしまっていた。 私が語った物語は、私の望まぬ方向へと舵を切り始めていたのだ。 子供の笑顔を求めた私は…………結果的に子供の死を産み出してしまった。 桃太郎政府の成立によって。 取り返しの付かないことをした、もうそれだけではすまされない。 私は、どこのどんな独裁者よりも惨たらしいことをやってしまったのだ…………』 ―――もはやここまで来ると、「わざとではない」等という言葉は詭弁でしかない、ときびだんご。 直立不動で佇むその姿が、山中にはひどく孤独に見えた。 「…………。」 44マグナムを仕舞う。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加