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「そうだ、もう一つ伝えることがあるんだった」
また数歩歩いたマシロが振り返る。
「子供たちに聞いたんだけどね、なんでもネージュさんに会いたいって人が来てるんだって。二人連れで、男の人と女の子。女の子の方は変な格好してるって」
「え……」
なんでだろう、不思議と胸が高鳴った。
確信があるわけではない。それでもどうしてだか、鼓動は速くなっていく。
マシロと別れたネージュは、客人が待っているという門まで杖を突きつつ歩いていく。途中、子供たちにじゃれつかれたりしながら。
急げ
急げ
不思議な衝動に動かされながら、ネージュは足と杖を交互に動かした。
「カーチャン、カーチャン、あの人たちだよ」
「あの人、たち……?」
子供の指差す先に、二つの人影があった。
人影たちは自分に気づくと、大きく手を振ってくる。
時が、止まったように感じた。
「あ……あ……!」
目を見開いたネージュは次の瞬間には笑顔になって、杖を捨てて人影のもとへ駆け出していく。
どこまでも高く広がる青い空。
悠然とたゆたう銀色の雲。
また、新しい物語が始まる。そんな気がした――
〈剣と奴隷のクロニクルⅢ 完〉
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