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女将が2人が走ってきた道を見た。野次馬が少なくなったことから、菓子屋の店主は諦めたのだろうと判断する。
「ねえ、女将。儀式ってなんなの?」
「僕、痛いのとか嫌だな…」
不安げに下を向くニールに、宿屋のオヤジが豪快に笑う。
「なんだい、おめーさんら、儀式を知らんのかい!」
「まあ、呆れた。ばあちゃんが何度も教えたはずだよ」
ため息をつく女将に、2人は苦笑いを返す。
「たしか…職を決める…んだっけ?」
「じゃあ、僕、魔法使いがいい!」
ニールが顔を上げてアムに言った。
「バカだなぁ、ニール。魔法ならもう使えるじゃないか」
「違うの!僕、お掃除の魔法とか洗濯の魔法とか、そんなんじゃなくてもっと凄いのがいいの!」
「学校に行けば学べるよ。それより、俺はドラゴンライダーがいいかな」
2人の会話を聞いて、女将とオヤジは優しい笑みを浮かべた。
「全ては魔石が決めることさ。私だって、儀式の次の日から急に料理が上手くなったんだよ」
「オレも、急に誰よりも寝心地のいいベッドを作れるようになったのさ」
ご自慢の黒ひげを弄りながら、宿屋の親父は笑顔で自慢する。
兄弟は、2人の話を楽しげに聞いた。
この村で一番料理が上手いのは女将だし、寝心地がいいベッドをつくってくれるのはオヤジだ。
アムとニールは、自分達の職───つまり、得意分野が決まるのを今か今かと待っていた。
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