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夢ノ見茶屋?
茶屋って言うより
旅館じゃない…?
ていうか、こんな
森の中にあって
お客さんとか来るの?
あたしの中で
疑問が次々とうまれ、
そして解決できずに
悶々としたまま消えていく。
しばらく、ここに来た
本来の目的を忘れて
ぼーっと看板を
眺めていた。
――…すると。
「…なあ」
「わっ!」
いきなり右側から
聞こえた声に驚いて、
少し後退りながら
ブンッと顔をそちらに向ける。
すると、そこには
壊れそうな、
入り口らしきドアに
寄りかかって
腕組みをしている、
甚平姿の男がいた。
「困ってんなろ?」
「………?」
何もかもが突然で
頭のついていかないあたしは
小首を傾げる。
すると、目の前の彼は
あたしをまっすぐ見つめて、
「あんた」
と、言った。
「…あ、あたし?」
た、たしかに
困ってる、って言えば
困ってるけど…
「んな、入れ」
「え?」
またもや、
小首を傾げるあたしに
不思議でたまらない、
と言いたそうな顔をした彼が、
小首を傾げ返す。
「入らん?」
入るも何も…
この人誰よ
ここどこよ
この人何弁喋ってるのよ…
ここは旅館なの?
入ってもいいの?
いろんな疑問があたしの胸に渦を巻く。
そんなあたしを見かねて
「まあ…とりあえず、入んね」
優しくあたしの肩を抱いて
中へと進んだ。
ドアの仕切りを
跨ぐとき。
なんとなく、
目を瞑ってしまった。
周りが明るくなった
ことに気がつき、
ふと目を開けると、
そこにはロビーのような
広い空間が
広がっていた。
そして、ドアを閉めた
瞬間、あたしの耳元で
囁いた。
「――…Welcome 夢ノ見茶屋」
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