夢うつつ

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さすがに誰も声をかける事ができず遠間で様子を見るだけだった。 その中、田代は一人惣三郎に近づいて行った。 「惣三郎。」 「あ、田代さん。」 同期と言えども、二人の歳は十二年違う。 よって惣三郎は丁寧に話す。 「どうした。随分とご立腹じゃないか。」 田代が冗談を言った。 が、今の青年には通じず尚更怒った様子でへそを曲げてしまった。 「すまん、すまん。冗談だ。」 「いったい、私をからかって何が面白いのでしょう。」 溜め息混じりにぽつりと言うと惣三郎は遠くを見つめながら首を傾げてみせた。 どういうカラクリがあるのか、ちょっとした素振りでも色っぽく見える。 無論、田代にもそう映りとっくに青年の毒にあたっていた。 青年は気がついてはいない。 今だに惣三郎が初心(ウブ)なのを良い事に男は少しづつ付け込んでいく。
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