奴は来た。

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彼女は「えいりあん」って名乗った。 小鳥がさえずる気持ちの良い朝のことだ。みんな、唐突に訳のわからんことを口走る目の前の転校生に面食らって何も言えなかったけど、彼女は少しも動じてなんかいなかった。動揺もしなければ笑いを誘っている訳でもない。至ってマジだった。慌てて先生が黒板に文字を書く―恐らく彼女の名前なんだろう。 「瑛利 餡」 チョークを握る先生の手が、ほんの少しだけ震えている気がした。確かに「えいり・あん」だ。先生はあからさまに苗字と名前の間にスペースを入れて書いた。繋げて書かれると、「えい・りあん」なのか「え・いりあん」なのかわからないからなんだろうな。ここまで事が進んで、やっとこの自己紹介に一切のギャグ成分が含まれてないことに全員が気づく。そう、うちのクラスに今日付けで新たにやってきた転校生は、名前からして明らかに”ぶっ飛んでる”奴だったからだ。
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