奴は来た。

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「よろしくお願いします。」明らかに感情の篭っていない見事なまでの抑揚ゼロな口調でそれだけ言うと、僅かに頭を下げて、すぐに前に向き直った。この人、一体どこを見ているんだろう・・・不安になるほどただ真っ直ぐ遠くを見つめる彼女、瑛利餡はどもりまくる先生の指示で窓側の最後方の席に座ることになった。羨ましい。かなり羨ましい。喉から手が出るほど欲しかった窓際の最後方をいとも簡単に取りやがって。けれど、それを咎める気にはならなかった。 彼女はいわゆる”美人さん”なんだ・・・それもとびっきりの。胸までサラリと伸びたしなやかな黒髪に、恐ろしいまでに整った容姿。同い年とは思えぬようなスタイルの良さ。何を食べたら一体こんな上玉になるんだろう。きっと朝からキャビアだのフォアグラだの食してるんだろうなぁ。そうでなきゃ、こんな容姿端麗が維持できるはずがない。 天は彼女に何物与えたんだろうか。おまけに彼女は運動も勉強もぶっちぎりでよくできた。100mを走らせれば県内記録をあっさり塗り替え、定期テストは恐ろしかな全教科満点でトップを奪い去るし。ただ一つだけ気にかかることがあった。瑛利餡は絶対に笑わないんだ。本当にただの一度も。
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