奴は来た。

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どれだけ難しい問題を解いても、陸上で記録を塗り替えても、だ。少しも嬉しそうにしない。ちっとも喜ばない。「私はできて当たり前なの」と言わんばかりな感じもしないし、なんだか周りで見てるこっちが腑に落ちなかった。 なんだか寂しいな、と思った。これだけ凄いことを成し遂げても喜び一つ感じないなんて。きっと人生を何割も損してる。きっと自分だったら鼻血吹き上げて喜ぶだろうに、本当にもったいない。それとも、もう当たり前すぎて何も感じないのかな、とも思った。これが「女王の風格」とか言うやつなんだろうか。 だからかな、「クール美女」のキャラ付けがなされるのにも時間はかからなかった。歳からしたら「美少女」なんだけど、なにしろ雰囲気が大人びていて凛々しいまでに冷ややかなもんだから「美女」って呼ばれ始めたわけだ。瑛利餡自身、それに対して何も感じてないのか、そもそも眼中にないのか、やっぱり何の反応も示さないわけで。俺からしたら「クール美女」ってよりも「石」とか「人形」の方がずっと近くてしっくりくると思ったんだけど、流石にそれはマズいかな。まぁなにせ、人とも最小限にしかコミュニケーションを取らないから、取り巻きも少しずつ散っていった。彼女としても、なんだかその方がすっきりするというか、清々しますって感じだったし。表情にも言葉にも出さないけど、本来のあるべき姿とでも言うのだろうか、落ち着くとこに落ち着いた感がして納得がいくような気がした。彼女は孤独を愛しているんだろうな。空気みたく”ただそこにいる”っていうあの感じ。でも不思議なのは、完全に空気でもないってとこだ。樹齢何百年の大木がひっそりと佇んでいる・・・そんな表現がぴったり。「空気」というよりどちらかといえば「背景」に近いそれは、目立たないけど異様なまでの存在感を発し続けている。圧倒的なまでの存在感―それが瑛利餡だった。
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