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そんなある日の放課後。生きてりゃどうやっても逃れられない厄介事がついてまわるなんて、どっかの誰かは言ったもので。俺は握りたくもない箒を片手に、履きたくもない床を虚ろな目をしながら履かなければならなかった。足元にはどす黒く濁った水の蠢くバケツ。なんとも言い難い陰鬱な気分。思わず口をつく濁った汚いつぶやき。事の発端は数十分前。毎日交代で行われる、まぁいわゆる「掃除当番」(うちのクラスでは何故か「粛清」と呼ぶ)を井上に任された・・・というより押し付けられた。それだけならまだいいんだ、まだ断る余地があるから。ところがあの野郎、「兄貴が持ってる無修正、ダビングしてやるから、な?」とか懐柔してきやがって。断れるわけないじゃないか、全く。
おもむろに視線を上げる。短針がどうだと言わんばかりに6を指していた。かれこれ30分以上も経っているらしい。窓の外では野球部だろうか、カキーンという乾いた音と掛け声に吹奏楽部の間延びしたホルンやフルートの音色が見事に調和して、放課後特有の気だるい空気感を醸し出している。嫌いじゃない、この感じ。むしろ居心地が良くてたまらない。夕焼けのグラデーションに身を包まれていくこの感じも、たまらなく好きだ。だが―それと並行して加速するこの胸騒ぎ・・・。なんだろう。穏やかな景色と空気を切り裂くように、階段を駆け上がっていくような焦燥感・・・焦り。得体の知れない恐怖感。これから何かとても悪いことが起きるような―
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