奴は来た。

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「よう、童貞」 どこから吹いたかもわからない風に一瞬なびいたカーテン。そこから現れた謎の人影。あまりに唐突のことで、およそ人とは思えない奇声をあげてしまった。 「なっ・・・なにやつ!」 へなへなのへっぴり腰で今にも折れそうな箒を構える高校生が一人・・・俺だ。ちなみに童貞だ。 「貴様・・・死ぬぞ?」 夕焼けの妖しい紅い光が教室を優しく包む。黄昏時の教室。話したこともない二人。でも、何故かミステリアスってよりもシュールって感じだ。 「・・・は?」 この声・・・誰だったか。ピンと来る人物が脳裏に映りかけたその時だった。僅かな風圧といい匂い、そして金属がぶつかる音― 「動きにキレがないじゃないか、ラヴ」 腰に回る腕。肩に当たる形容し難い柔らかさのアレ。女の子に抱きかかえられてました、俺。たとえ今死んでも決して後悔いたしません、父上。 「手加減したつもりなんだけどなっ!」 聞きなれない声が耳に入って我に返る。視線の先には思いっきり日本刀を俺に向けて振り下ろしている女の子が一人。完全に銃刀法違反だろう、いいのかコレ。だが、その刃は俺を斬ることなく、俺を抱きかかえる謎の少女によって阻まれていた。ちらっと目に入った綺麗な横顔。瑛利餡だった。俺を守ってくれたんだろうか。間違いない、奴だ。でも何故・・・? 「やっぱり邪魔するんだね・・・アン」 ラヴと呼ばれた日本刀のその娘は少し悲しげにそうつぶやいた。瑛利餡の右手には一体どこから持ってきたのだろうか、これまたひ弱そうな、俺の右手に携えていた箒となんら変わりのない鉄パイプが握られていた。そして驚くことに、あろうことかそれで日本刀を受け止めていた。世界が認める、切れ味に定評のあるあの日本刀を、である。
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