奴は来た。

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次の日は案の定たいして眠れなかった。頭痛と耳鳴りが酷い。布団に入ってからも、例の謎の女戦士達のせいか、ずっと頭はサーカス状態でちっとも休まりゃしなかった。定時に起きれたのは正直奇跡だと思う。 「うっぷ・・・吐きそう」 マグマみたくこみ上げてくるわけでもないのに、どうしてこんなに気分が悪いんだろう。どうせリバースするならさっさとぶちまけてスッキリしたいのに。低音でじわじわ焼かれているような嫌な気分。二重で吐きそう。 「それじゃー出席取るぞー」 担任の山本の野太い声で揺らぐ意識がなんとか前に向いた。朝にはもってこいの声色なんだろうが、今だけは勘弁願いたかった。本当に耳障りです、黙ってください先生。というよりいつ来たんだあんたは。 「青木ー、青山ー、」 そんなささやかな疑問が浮かぶ頃には出席点呼が始まっていた。本当に何なんだろう、世界が凄い速さで回っていくようなこの感じは。置いていかれるようなこの感じは。どんどん周りが自分を置いて先に行ってしまうような妙な感覚が止まらない。昨日感じた焦りや恐怖とはまた違った、どちらかと言えば”カンに障る”感覚ではあるけど。 「井上ー」 聞き捨てならない名前がコールされて、ふと我に返る。そうだ奴から”ブツ”を受け取ってない!お前がくれると言った無修正DVDの為に危うく死にかけたんだぞ、俺は。なんとしても回収しなければ。だが、肝心の井上は突っ伏したまま微動だにしない。とうとう死んじまったのか? 「井上ー!井上ー!」 ぐっすりすやすやといった感じでもないし、本当に大丈夫だろうか・・・生気が感じられない、棺桶に入りそこねてうっかり学校来ちゃいましたってオーラがぷんぷんと奴から立ち込めている。ちゃんと息をしているのかかなり不安だ。どうでもいいけど山本さん、頼むからもっと周波数下げてください、頭割れそうですから。 「井上ー、いないか。珍しいな。」 いいのか、井上!いないことにされてるぞ。せっかく棺桶から這って出てきて学校来たのに、それでいいのか!?山本はあっさり教え子の安否確認を打ち切ると、後続たちの名前を急ぎ足で呼び始めた。井上一人の為に時間を割くのが惜しいんだと言わんばかり。俺はこんな朝の、慌ただしく足早に駆けていく感じが大嫌いだった。
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