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そんな日々が続いて、もう人々が秋物から冬物のコートに替えだした頃、小さな事件が起きつつあった。
私が働いてるキャバに最近来るようになったお客様。
必ず私を指名してくれるし、話し方も謙虚でスマートだから、最初はいい人なんだなって思ってた。
見た目もごく普通のサラリーマン。
多分30代前半くらい。
真面目そうだし、仕事もできそう。
笑うと目がなくなるくらい細くなって、結構好印象だった。
けれどもその内、私のケータイや住んでる所をしつこく聞いてくるようになった。
私に直接聞いてくるだけじゃなくて、姫菜さんや他のキャバ嬢達に聞き回ったりしてることも分かったから、姫菜さん達が要注意人物としてマークし出した頃。
いつもならキャバが終わると、お店でメイクを落として、眼鏡とヨレヨレのパーカーのダサ子に変身して、誰にも『パリ』の『華恋』だとは気づかれずに帰るんだけど、その日に限っては私はものすごく急いでた。
そして『華恋』のままでいたい理由があった。
それは、仕事中に入ってた那智さんからのメール。
『仕事が終わったらウチの店に来て。またコーヒー淹れるから』
私はその秘密のデートみたいな感じに、ちょっとだけ浮かれてた。
姫菜さんにカワイイ私服まで借りちゃったりなんかして。
姫菜さんがロッカーに何着か私服を置いてるのは知ってた。
だから何か服を貸して欲しいってお願いしたら、それはそれは嬉しそうに?面白そうに?…コーディネートしてくれたんだ。
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