* カノジョの品格

7/274
前へ
/703ページ
次へ
「…何が目的ですか…?」 私は喉元のカミソリに注意を払いながら、低い声で坂井さんに尋ねた。 若干声が震える。 坂井さんはカミソリを持つ手を緩めることなく、いつもの人のいい笑顔を浮かべた。 「…目的?そんなものないですよ?愛し合う2人の前には。」 「…じゃあ何でこんなモノ…?」 私は視線だけちろりと坂井さんの手に落とし、重ねて尋ねた。 「…あぁ、華恋さん、いい匂いだ…。」 私の質問は無視された。 坂井さんは私の髪に顔を埋めて、大きく息を吸い込んだ。 「…子どもは2人がいいなぁ。男の子と、女の子。一人ずつ。」 …ダメだ。 この人、本当にダメだ。 完全にイッてる…。 私は湧き上がる恐怖心に耐えながら、ドクドクと脈打つ頭で一生懸命に考えた。 どうやったら逃げられるか。 どうやったらコイツをやっつけられるか。 こんなに緊迫した場面なのに、私の脳裏には、ピンチにシャキーンと飛び出てくる戦隊モノのヒーローが思い浮かぶ。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6375人が本棚に入れています
本棚に追加