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「…何が目的ですか…?」
私は喉元のカミソリに注意を払いながら、低い声で坂井さんに尋ねた。
若干声が震える。
坂井さんはカミソリを持つ手を緩めることなく、いつもの人のいい笑顔を浮かべた。
「…目的?そんなものないですよ?愛し合う2人の前には。」
「…じゃあ何でこんなモノ…?」
私は視線だけちろりと坂井さんの手に落とし、重ねて尋ねた。
「…あぁ、華恋さん、いい匂いだ…。」
私の質問は無視された。
坂井さんは私の髪に顔を埋めて、大きく息を吸い込んだ。
「…子どもは2人がいいなぁ。男の子と、女の子。一人ずつ。」
…ダメだ。
この人、本当にダメだ。
完全にイッてる…。
私は湧き上がる恐怖心に耐えながら、ドクドクと脈打つ頭で一生懸命に考えた。
どうやったら逃げられるか。
どうやったらコイツをやっつけられるか。
こんなに緊迫した場面なのに、私の脳裏には、ピンチにシャキーンと飛び出てくる戦隊モノのヒーローが思い浮かぶ。
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