* カノジョの品格

9/274
前へ
/703ページ
次へ
「…ねぇ、何でこんなことするの?…アナタが言うように愛し合ってるなら…こんな刃物必要ないでしょ?」 なるべく優しい声を心掛けたが、やっぱりどうしても声が震える。 言ってるセリフも自分でちょっと気持ち悪い。 「…あぁ、華恋さん、華恋さんはきっと着物も似合うでしょうねぇ…。」 坂井さんが何度も私の髪に頬ずりした。 …また会話不成立かよ!? もう何なのよー!!!! ふと、坂井さんの集中がカミソリから外れているような気がした。 私はそれこそピンチの時のヒーローのように、「今がチャンスだ!!」と心につぶやいた。 持っていたハンドバッグを震える手で握り直すと、思いっきりそれを坂井さんの後頭部にめがけてぶつけた。 一瞬、坂井さんは私が何をしようとしたのか気付いたみたいだったけど、咄嗟の防御はできなかったみたいだった。 前のめりになった坂井さんの手が離れて、当然、私は一瞬で飛びのいた。 そしてそのまま駆け出そうとした。 …けれど、震える足がもつれて、走り出すことはできなかった。 くるりと向きを変えた所でカクンと私の膝が折れて、べしゃっと四つん這いになった。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6374人が本棚に入れています
本棚に追加