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「せんぱーい!」
五月もそろそろ終わりに近づいてきた頃。
いつものように廊下で友達と話していると、聞きなれた声が背中の方から聞こえてきた。
男の子にしては少し高いけれどしっかりとした声は、バタバタという激しい足音と共に私の方に近づいてくる。
「まーた来た。相変わらずだね、本当」
私と話していた友達、相沢玲奈(あいざわれな)は大きな目を薄く閉じて頭を軽く振る。
緩く巻いてある肩までの長さの髪が首に当たってチクチクしないのかな、なんて考えながら私は後ろを振り向いた。
私と目が合うとみんなの注目の的になっている男の子が笑顔で手を振ってくる。
相変わらず大げさだ。
私の目の前にたどり着くとよりいっそう笑顔になった。
廊下を走ってきて息切れ一つしてないなんてすごいな。
「優奈先輩!本貸してくれてありがとうございました。すっげー面白かったです。続き出たらまた読ましてくださいね」
そう言って優奈先輩こと、私、野村優奈(のむらゆうな)に本を渡してくる。
これは私のオススメの本だったからそう言ってもらえると、自分が認められているみたいで嬉しくなる。けれど、毎回毎回こんなに目立つのは嫌だ。
「ねぇ渡瀬君、いつも言ってるけど、こういう派手な登場は少し控えてくれないかな?」
渡瀬樹(わたせいつき)は私たちの一つ年下の一年生で、毎日昼休みに会いに来る。
そして、いつしかそれは昼休みの恒例となっていたのだ。
「俺またやっちゃったか・・・。すいません、気をつけます」
怒られた子犬がうな垂れるように頭を下げた瞬間、昼休み終了のチャイムが校内に鳴り響いた。
「あっ先輩、今日も校門のところで待ってますね。まだ喋りたい事いっぱいあるけど、それはまた帰る時に、それじゃあ!」
軽くお辞儀をして今来た道を渡瀬君は戻っていく。
私たちを含め廊下にいた皆がそれにつられるかのように、自分の教室に戻っていく。
「本当に優奈は樹君に好かれてるねぇ」
「そうかなぁ…ただこの本が読みたかっただけなんじゃないの?」
玲奈は呆れたように大きなため息をついた。
「だって毎日優奈のところに会いに来てるんだよ、それだけな訳がないでしょうが」
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