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俺は隆成君の目の前にしゃがむと、箒とちり取りを邪魔にならないように片手に纏めて持ち、隆成君と目線を同じにした。
「せんせーが寒くないよーに、ぎゅーっ!」
「っ!!」
隆成君はしゃがんだ俺の首に両腕を回して、ぎゅうと俺を包んだ。
隆成君の体温は流石子供と言うべきか、ポカポカしていた。
「やすゆきせんせー、あったかいー?」
「おー…あったかーい…」
隆成君の頭をなでなでしながら答える俺。これだから小さい子はーっ。
「…うおー!可愛いーな畜生ーっ!」
「きゃーっ!ちくしょーっ!」
隆成君の髪の毛をわしゃわしゃしてこの思いをぶつけると、案の定楽しそうに声を上げて喜んでくれた。
「ね、せんせ。まだ寒い?」
「全然寒くないよー!むしろ先生暑くなっちゃった」
「えへへ、よかった~」
俺と顔を合わせた隆成君は、ふにゃりと柔らかそうな頬っぺたを寒さで赤くさせ、可愛らしくぷくりと膨らませた。まるで林檎だ。
それにしても何か忘れてるような……あ、掃除!
忘れていた朝のお仕事を思い出しゆっくりと立ち上がる。
「あ、あ…」
「隆成君、先生そろそろお掃除しなくちゃいけないからまた後でね」
「せんせっ」
「?」
隆成君はくいくいと尚も離さない俺の服を引っ張って、何か言おうとしていた。
「つぎにね、やすゆきせんせがね、寒くなった時にはね、ぼくがあたためてあげるね!」
「・・・」
なんだ、この可愛らしい生物は。
「せんせー…?」
「…よ、よろしくお願いしまぁぁあああっす!!」
「やったーっ!」
思わず俺から抱き着いた。無理だ、耐えろなんて絶対無理だ!
誰か俺を助けて下さい…。
そんな雪の降る寒い冬のなんでもない朝。
――まさかあの可愛らしかった隆成君が、15年後にあんな格好よくなって俺の前に現れるなんていうのは…また、別のお話。
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